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過去、コンチェルトゲートの主に身内向け業務連絡用として存在していました(2010年秋。事実上の更新終了です)
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約束を守れますかな?

その初老の男は静かに、そして厳粛に問いかける
まるで心臓を素手で掴まれたような感覚
呼吸は乱れ、咽喉がカラカラに乾き
答えを求め、出口を求めて思考の牢獄を彷徨う

何故このような境遇に陥ったのか…
混濁する意識の中、一縷の望みを託してその過程を手繰り寄せた


eaf770c9.jpg

















かれこれ数週間も前になるだろうか
何とも不可解な噂話を耳にした
黒布に覆われた鳥篭を持つ男の噂だ

その男に覇気はなく、意志の強さとは無縁の顔つきをしていた
男は毎夕、鳥篭を抱えて公園でぼんやりと座っているのだという
黒布に覆われているのに何故に鳥篭と分かるのか?
その”鳥篭”からは、なき声が聞こえるらしいのだ

人々は不思議に思い、鳥篭の中身について想像を巡らせた
捕獲が禁じられている希少種だから見せられないのだ
凶悪なモンスターを飼っているのではないか
そもそも、鳥なんていない。あの男の腹話術だ
ありとあらゆる憶測が飛び交った

やがて衆目の興味は鳥篭から男に飛び火する
どうやら男は、幼き頃から名を馳せた魔法使いだったらしい
称賛は期待に変わり、過度な期待はやがて失望と嘲笑に成り下がる
男はその典型だった
失意のどん底にあるかといえば、あながちそうでもない
男にとって他者の評価など、どうでもいいことなのかもしれない
そんな噂が立った

いつしか誰それが鳥篭の中身を見たらしい、との噂が流れ始めた
当事者に鳥篭の真相を聞いたところ、疲れ果てた表情で口をつぐむばかり
やはり鳥篭の中には恐ろしい化け物がいたのだ
あの男の魔法で恐ろしい幻覚を見せられたに違いない
まことしやかに、人々は噂話を囁く


ある日のこと。彼女はベンチに座りぼんやりと夕焼け空を見ていた
ふと気がつけば、隣に見知らぬ男が座っていたのだ
黒布で覆われた”鳥篭”を携えて…

不用意に目が合う。柔和な顔つきの初老の男だ
彼女が何か言いたそうな顔をしていたのかもしれない
「決して誰にも明かさないならお見せしましょう。約束を守れますかな?」
男は静かな口調でそう切り出した

ドクンッ。心臓が張り裂けそうな圧迫感
嫌な汗がでる。夏だというのに凍えそうなほど肌寒い
男は黒布に覆われたソレを抱えて座っているだけなのだ
何を恐れる…。まるで鳥篭に囚われた彼女の心…
蝉の鳴き声が早く早くと急き立てる
混濁する意識の中、消え入りそうな声で答えを振り絞る

ようやくして声は届いた
彼女の答えを受けて、男は満足そうに頷いた



物語はここで終わる
この小話の真意を掴みかねた私は
お茶を淹れ、読み返し、またお茶を淹れ、また読み返す
そうして私なりの結論に辿り着いた
申し訳ない。今夜は約束がある。そろそろ外出しなくては


ジャグリン ―鳥篭のなき声―





 

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