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過去、コンチェルトゲートの主に身内向け業務連絡用として存在していました(2010年秋。事実上の更新終了です)
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ここ南地区は職人たちの街でもある

職人街の朝は早い
夜明けの頃には朝採りの果実や野菜に卵、新鮮な食材が所狭しと並び
競うように立ち並ぶ朝食屋台からは、美味しそうな香りが立ち込めている
中でも人気は蒸しもの屋台と汁もの屋台。視覚、嗅覚、味覚に温もり―
蒸気の魔力はちょっとズルイ 

夜明け前。世界ががらりと姿を変えるこの時間が好きだ
朝露の世界…その儚さがたまらなく好きだ
私の名はジャグリン。生粋の斧職人である
何故に、この職業を選んだのか確固たる理由はない
強いて言うなれば、金属に惹かれたのだと思う。無慈悲に光る金属は魅力的だ


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「おはようございます。銀は大丈夫。うんうん。今は青銅が欲しいかな」
馴染みの採掘師と言葉を交わし、今日の仕込みを開始する
この世界の武器創りは殊更に特殊で、自らの精神力を杭として素材に打ち込むのだ
そのため、武器職人は戦いに向かない
研ぎ澄まされた精神がものを言う世界。腕力を磨く余力がないのだ
加えて、Rank4(殺傷力の指標である)以上の武器を扱うことも
魔法を唱えることも厳しく禁じられている
(その理由を知ったときには失笑したものだ)

必然的に街で過ごすことが多くなり、冒険者たちの語る武勇伝に心躍らせる日々
長く武器職人を続けていると、それなりに顔も広くなるもので
斧職人の私は、きこり、採掘師、そして冒険者の知り合いが増えた
知り合いは増えた、と言った方がより正しいかもしれない
人の繋がりは朝露のようなもので儚く脆い
顧客を送り出す「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」の数が合わないことに慣れてしまった
冒険者たちの武勇伝。一握りの成功者。では…失敗した者は…?

かつて、私にも懇意にしている冒険者がいた
彼は、私が持ち上げることさえ一苦労なラージブロードアクスを軽々と振り回す兵士
その光景を羨ましくも惚れ惚れと見ていたものだ
あの頃の私は「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」が永遠に続くと信じていたのかもしれない
永遠に続くはずだった日常。ある日、彼はこう切り出した
「あのさ。先の見えない閉塞感、先が見えている挫折感、どちらが残酷だと思う?」
あまりの唐突さに、バチバチと瞬きを繰り返し彼の顔を凝視する
答えに窮する私を見かねて、彼は困ったような笑顔を浮かべていた



それが最後の問答だった―
彼が消息を絶って一ヶ月ほどしたある日のこと。噂話で彼の結末を知ることになる
何故、そこまでの無理をする必要があったのだろう…
私は武器を創ることを止めた
先の見えない閉塞感、先が見えている挫折感。彼の最後の言葉を反芻する
考え抜いた私の答えはこうだ
本当に残酷なのは…今を失うことなんだよ…


それから半年後、私はこの街に帰ってきた
「おかえりなさい。元気にしてた?心配していたんだよ?」
こんな私にも旧知の人々が声を掛けてくれた。私には…今がある

夜明け前。世界ががらりと姿を変えるこの時間が好きだ
朝露の世界…その儚さがたまらなく好きだ
永遠に続く日常ではないかもしれない。儚いからこそ今が愛おしい

今日の仕込みを終えて、金属との対話を開始する
冷たく無慈悲な金属は、私の今を映し出す。ただただ現実を映し出す
金属の前では、過信も期待も悲観も嘘も通じない
私は今を受け入れ、今を信じ、全身全霊で今を鍛え上げる
金属至上主義―

こうして金属との対話を終えた夜
朝露の世界を待ち焦がれ、静かに眠りの底につくのだ


ジャグリン ―金属至上主義―





 
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心に響きました・・・
もう、間違いなく僕が今まで読んだブログ記事の中で一番心に響きました・・・。

問いかけられる難問。
ジャグリン氏と共に考え、結果から導き出される己の真の回答。
視覚から嗅覚までを感じさせる見事な描写も交わり、感情移入バッチリで堪能致しました!
いや、これもうプロの作品ですよw

ブロードアクスの兵士が例えた残酷さは、まだ覚悟を持って臨めると思いますが、
ジャグリン氏に与えられた残酷さは覚悟の隙を与えないもの。
人の性と割り切ろうとしたところで、これ以上の残酷さなんて無いのではないでしょうか。

素晴らしく切なく、奥深い記事更新、有難うございます!
これは午後の仕事中にも思いを馳せてしまいそうですよ!

P.S.
お互い普段はアレな記事を書いてますが、まさかシリアスで
タイミングが合うとは驚きでしたw
BANX URL 2009/07/20(Mon)12:58:05 編集
言葉の芸術っ
内容に関してはばんさんにバッチリ書かれていたので、文章の面から感想をっ

内容もさながら、職人たちの静かな朝を淡々と語る文面にも心打たれました・・・
擬音を使っているわけでもないのに、朝の静けさに響く職人たちの足音や会話、まるで自分がそこにいるかのように音が聞こえ、風景が見えているようでした
たかが文章、されど文章・・・
文章のもつ魔力を存分に生かした記事だと思います
これは誰しもマネできないですよねぇ・・・
さすがモンさんと言うばかりですっ
ステキな記事、ありがとうございました♪
めび URL 2009/07/20(Mon)14:32:46 編集
お見事♪
「街は生きている」
とあるゲームミュージックでそんなタイトルがありましたが
なんかふと思い浮かんだ言葉がこれでしたね

自分の稚拙な文章でお目汚ししてしまうのもアレですので
ひとつだけ・・

マクガフィン・・入りましたねw
ぺんぎん 2009/07/20(Mon)20:02:49 編集
考えさせられます
相変わらず、素晴らしい文章センスをお持ちですねぇ。
場面や感情の細かな表現、読みやすい流れ。
ついつい感情移入して読み入ってしまいました。

ブロードアスクの兵士の問いかけに対し、ジャグリン氏が出した答え…
「恐ろしいのは、今を失うこと」
それは自分たちにも当てはまること。
今の関係がいい。今の状態がいい。今が楽しい。このままずっと終わらなければいい。
でも、いつかは失くなってしまうから―――
そう思うからこそ、人は今を精一杯生き抜いていくんでしょうね。

……うむ、論点ずれてる気がします(ぁ
シライ URL 2009/07/21(Tue)00:47:40 編集
今回は最後まで押し切りました
皆様、気合の入ったコメントありがとうございます♪
たまには、シリアスなものも書いてみたくなり
(以前からぼんやりと暖めていたのですが)一気に書き上げました
淡々とした描写は、個人的に得意分野。非常に書きやすいのです。フフフ
テーマとしては未来が見えない現代を生きる我々にも重くのしかかるもの
目を通していただいた皆様の何かに訴え…
それぞれが自分なりの解を導いていただけたなら幸いです
文字がもつ力。浮かび上がる光景は読み手の想像力に深く依存するもの
稚拙で簡素な描写から、情景を浮かべて頂けたのであれば
読み手である皆様の"経験値"や"イマジネーション力の高さ"でしょうね~

今回で潔く完結することも考えましたが
テキストは楽しい!ということで、続編が時々ごにょらりんzzz
ある意味で救いのない重いテーマでありましたので
淡々とした描写ながら、ジャグリンに救いのある内容になりそうです
毎回読みきりな感じで、すでにラフなイメージが数話分できてます
更新頻度がごにょんごにょん

ぺんぎんさん?そ・れ・だー!
マクガフィン…入ってましたね(笑)
ということで、カテゴリー「マクガフィン」で急遽後付けです~
モンモランシー URL 2009/07/21(Tue)21:40:33 編集
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