過去、コンチェルトゲートの主に身内向け業務連絡用として存在していました(2010年秋。事実上の更新終了です)
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窓越しに見る雪山は、春もやを装い墨絵色
舞台は、美術館併設のカフェ
漆黒のショコラショーに雪のようなクリームを添えて…
カカオの甘い香りに包まれ、静かに静かに深呼吸
(そろそろ?…もう少しかな)
悪戯っぽく笑い、目配せで合図する
私とココットは”沈黙の助走”を楽しんでいた
ファンブルグ美術館。今春の催し物は-墨絵回廊-なる企画
決まりごととして、回廊の中では絶対に声を漏らしてはならないのだ
程よく沈黙に染まった頃、私達は回廊の中へ歩みを進めた
山道になぞらえた螺旋状の回廊
壁面いっぱいに画かれた墨絵の世界を巡り
回廊の中央、すなわち山頂へ向かって遊歩する仕掛けだ
幽玄の世界に現れる草花や鳥獣、風光明媚な景色
巨大な絵巻物を体現しているといえば分かりやすいだろうか
歩みを進めるにつれ、刻々と変化する景色
鬱蒼とした密林を抜け、空の広さを目にした時は鳥になれた気がした
木陰に潜んだ小さな小さな赤鼠を見つけた時は無性に嬉しかった
見事に描写された滝は壮観であったし、北国へ向かう渡り鳥の群れは印象的だった
四刻半ほど歩んだであろうか
山頂が近いことを示す墨絵の標識が見て取れた
さぞかし見晴らしよく雄大な景色が広がっているのだろう
期待に胸は膨らむばかり
勢い込んで辿り着いた山頂
私達は言葉と思考を失うことになる
そこには何もなかった。何もなかったのだ…
天地、四方。全てが白色に覆われた異様に明るい空虚な空間が広がっていた
虚を突かれた私達は互いに顔を見合わせる
何かの間違いではないか。そんな顔をしていたように思う
意図された空白…
回廊の仕掛けが意味するもの…
自問自答はぐるぐると…螺旋の樹海を彷徨う
墨絵世界の登山。実態のない山頂
声を漏らしてはならない決まりごと。なるほど…ね
墨絵回廊の真意について想いを巡らせ
何もない山頂で、私達は目と目で会話を楽しんだ
すっかりと得心した私達は軽妙な足取りで下山する
墨絵回廊の仕掛け。その答えは春もやの中
この解はそれぞれが導けば良いのだ
結論を山頂になぞらえるならば
そこに至る道程にこそ価値があるのかもしれない
回廊の出口で登頂記念のポストカードを頂いた
その図柄は、墨で画かれた狐狸―
思わず顔を見合わせた私達
心の奥から、小さな笑い声が漏れた
ジャグリン ―墨絵回廊―
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